要件定義だけを外注できるか。その前に確認したいこと
要件定義と発注の実務|準備と、進め方 6本目 全8本
目 次
要件定義だけを外注できますか——というご相談には、もちろん受けますとお答えしています。
そのうえで正直に書くと、できれば最後まで作らせていただきたいとは思っています。
理由は仕事を増やしたいからではなく、要件定義書は成果物の品質を保証しないからです。書類に書ける範囲の外側に、出来を決める部分がかなり残ります。
要件定義だけの外注も、お受けしています
「要件定義だけをお願いすることはできますか」
このご相談は、たまにいただきます。答えは決まっています。
「もちろん受けます」
社内に持ち帰る資料が要る、制作は別の会社に頼むことが決まっている、まず整理だけしたい——事情はいろいろだと思います。断る理由はありません。
そのうえで、この記事では受けたうえで思っていることを書きます。読んで判断していただくほうが、たぶん早いので。
要件定義書は、成果物の品質を保証しません
ここが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。
要件定義書が丁寧に書かれていれば、いいサイトができる——とは限りません。書類の出来と、完成物の出来は、別の話です。
理由は単純で、書類に書ける粒度には限界があるからです。
たとえば、こういう部分です。
| 書類に書けるか | |
|---|---|
| ページ構成・必要な機能・公開時期 | 書けます |
| 想定読者・伝えたいこと | 書けます |
| 見出しの文字の詰まり方 | 書けません |
| どの写真を、どの大きさで使うか | 書けません |
| 一文をどこで改行するか | 書けません |
| スマートフォンで見たときの、余白の取り方 | 書けません |
下の4つは、書類の項目にはなりません。それでも、見た人の印象はここで決まります。
要件定義書を渡して制作を別の会社にお願いすると、この部分の判断が、書類を受け取った側に委ねられます。委ねること自体が悪いわけではありません。ただ、要件定義書がどれだけ丁寧でも、そこは保証されないということです。
書類に書けない場所に、出来を決める部分が残ります
私たちが最後まで作りたいと思うのは、ここが理由です。
細部に魂は宿る、と思っています。だから、できるだけ自分たちでやりたい。
先日、納品後にこう言っていただきました。
「WordPressも細かく設定してもらいありがとうございます」
これは、要件定義書に項目として書かれていた話ではありません。作りながら「ここはこうしておいたほうが、あとで楽だろう」と判断した部分です。書類には出てこない場所で、そういうことが積み重なります。
要件を整理して手を離すと、この積み重ねが自分たちの手から離れます。それが少し、もったいないと感じます。
これは、受け取った会社の力量の話ではありません。書類という形式が、そこまで運べないという話です。誰が受け取っても同じです。
要件定義だけを外注するなら、先に確認したいこと
そのうえで、要件定義だけを外注する場合に、先に確認しておいたほうがいいことを書きます。3つあります。
1. その書類を、何社に渡すか
渡す先が1社なら、書類はそれほど厳密でなくて構いません。話しながら詰められるからです。
複数社に渡す場合は、話が変わります。 同じ条件で比べるための書類なので、条件が揃っていないと比較になりません。見積の前提がずれて、金額だけが並ぶことになります。
この一問だけで、必要な厳密さがだいたい決まります。
2. 細部を、誰が決めるか
先ほどの「書類に書けない部分」を、最終的に誰が判断するのか。
- – 制作会社に任せる → それでいいと思います。任せる前提で選ぶことになります
- – 発注側で判断する → 判断できる方が社内にいるか、という話になります
- – 要件定義を作った側が引き続き見る → その体制になっているか、先に確認が要ります
3つ目は、意外と決まっていないことが多い部分です。要件定義を作った会社の関与が、書類を渡した時点で終わる契約になっているかどうか。ここが宙に浮くと、細部の判断をする人がいなくなります。
3. 制作会社が決まってからでも、間に合わないか
順番の話です。
要件定義を先に作ってから制作会社を探す、という進め方は自然に見えます。ただ、制作会社が決まってから一緒に作るほうが、書類は早く仕上がります。 作る側は、何が決まっていれば作れるかを知っているので。
急がない事情なら、順番を入れ替えるだけで工数が減る場合があります。
急ぐ事情がある場合は、先に作って構いません。 稟議のスケジュールや、年度の区切りは動かせないので。
それでも、要件定義だけを外注したほうがいいケース
はっきりあります。
- – 入札や、それに準じた手続きがある
条件を揃えた書類が先に必要です。制作会社を決めてから、という順番が取れません。
- – 社内で予算を通す必要がある
金額を出すために、作るものの範囲が先に要ります。
- – すでに制作会社が決まっている
そこに渡す整理された書類が要る、という場合。この場合、私たちが制作を担当することはありません。それでもお受けします。
- – 複数社を、条件を揃えて比較したい(RFPと要件定義書、混ざっていて大丈夫です)
比較したいのであれば、比較できる書類が必要です。
- – 社内に、判断できる方がいる
細部の判断ができる方が社内にいらっしゃるなら、要件だけ整えて任せる進め方はうまくいきます。
これらの場合、要件定義だけを外注するのは合理的です。「全部うちに任せてください」という話ではありません。
私たちにご依頼いただく場合
要件定義だけをお受けする場合も、進め方は変わりません。
45分お話を伺い、聞ききれなかった部分はこれまでの案件から補って、こちらで書類の形にします。お客さまに書いていただく作業はありません。
出来上がった書類は、そのままお渡しします。他社に渡していただいて構いません。
ひとつだけ申し上げると、その書類にも、先ほど書いた限界はそのまま残ります。私たちが書いても、細部までは書き切れません。書類がその範囲を超えられないのは、書き手の問題ではないためです。
制作会社によって要件定義書を求めたり求めなかったりする理由は要件定義書を求める制作会社と、求めない制作会社の違い、作る側が書類のどこを見ているかは要件定義を「作る側の視点」で見ると、聞かれることが変わります、実装側の書類はコーディング仕様書に、書くことがほとんどない理由に書きました。
向くケース・向かないケース
要件定義だけの外注が向いているケース
- – 入札・稟議など、書類が先に必要な手続きがある
- – 制作会社がすでに決まっている
- – 複数社を同一条件で比較したい
- – 細部の判断ができる方が社内にいる
一緒に最後まで進めたほうがいいケース
- – 急いでいない
- – 完成形のイメージがまだ湧いていない
- – 細部を任せられる相手を探している
- – 書類を作ること自体が目的ではない
最後の行が、いちばん多い気がしています。書類が欲しいのではなく、いいサイトが欲しいという状態です。その場合は、書類を経由しないほうが早いことが多いです。
書式が要る場合は記入例つきの要件定義書テンプレートを配布しています。デモが書類の役割をどこまで引き受けるかは要件定義書を書く代わりに、デモを見るに書きました。
締め
要件定義だけの外注は、お受けします。もちろん受けます。
そのうえで、要件定義書は成果物の品質を保証しません。文字の詰まり方も、写真の選び方も、改行の位置も、書類には書けないからです。私たちが最後まで作りたいと思うのは、そこに出来の差が出ると思っているからです。
入札や稟議で書類が先に要る場合は、遠慮なくお申しつけください。書いていただく作業はありません。
まだ決めかねている段階でも、そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。