要件定義を「作る側の視点」で見ると、聞かれることが変わります
要件定義と発注の実務|準備と、進め方 4本目 全8本
目 次
要件定義書のどこが重要かは、書類を見ても分かりません。
分かるのは、その書類を前にして話していただいたときです。私たちが見ているのは、最初に口に出された項目と、説明が急に長くなった項目の2つだけ。
作る側がどこを見ているかを知ると、書く量を増やす方向には行かなくなります。
要件定義書は読みます。ただ、読んだだけでは順位が分かりません
要件定義書をお持ちいただいた場合、一通り読みます。経験上気になる点があれば、その場でお伝えします。
ただ、読んだだけではどの項目がその会社にとって重いのかが分かりません。
書類の中では、項目はすべて同じ大きさで並んでいます。見出しの文字サイズも、枠の大きさも同じです。10行書かれた項目と、1行で終わっている項目のどちらが重要かは、分量からは判断できません。むしろ逆のことがよく起きます(この話は後半で書きます)。
順位が見えるのは、読み合わせをしたときです。
私たちが打ち合わせで書類を「使う」と言うとき、意味しているのは一緒に読む時間を取るということです。声に出していただくと、書類にはなかった情報が出てきます。
要件定義の読み合わせで、見ているのは2つだけです
読み合わせのあいだ、私たちが見ているのは次の2つです。
1. 最初に口に出された項目
2. 説明が急に長くなった項目
この2つに、その会社にとって本当に重要なことが出ます。
1. 最初に口に出された項目
「今日は何からお話ししましょうか」と伺ったときに、最初に出てくる話です。
順番は、意識して決めたものではありません。だからこそ、いちばん頭を占めていることが出ます。書類の項目順とは、たいてい一致しません。
2. 説明が急に長くなった項目
ほかの項目は1〜2分で終わったのに、ある項目だけ5分、10分と続く。話しながら具体例が出てくる。過去の経緯が出てくる。「これは前からずっと気になっていて」という前置きが入る。
長くなったこと自体が情報です。 何を長く話されたかを覚えておけば、その会社の優先順位はほぼ分かります。
逆転していること|大枠の目標ほど、書類では読まれません
ここが、作る側から見ていていちばん不思議な部分です。
いちばん重要なはずの「サイトの目的」や「大枠の目標」が、書類の中ではいちばん読まれません。
長く書かれているほど、そうなります。
理由は単純で、大枠の話は書き言葉にすると抽象的になるからです。「企業の信頼性を高め、採用力の強化につなげる」——間違ってはいないのですが、この文からは、次に何を作ればいいかが決まりません。
だから、そこは読み流して、打ち合わせで深掘りすることにしています。
「信頼性」と書かれた同じ4文字が、会社によって別のものを指しています。ある会社では施工実績の写真のことで、別の会社では社長の顔が出ていることで、また別の会社では電話がすぐつながることでした。これは口頭でしか出てきません。
結果として、要件定義書はこういう構造になっています。
| 書類に書く価値 | |
|---|---|
| 大枠の目標・コンセプト | 低い(長く書くほど読まれない) |
| 細かい条件・制約・数字 | 高い(書いてあると助かる) |
重要なことほど書いても意味がなく、細かいことほど書く価値がある。
一般的な要件定義書のテンプレートは、この逆の順番で並んでいます。最初に大きな話、後半に細かい話。上から順に力を入れて埋めていくと、いちばん力を入れた部分が、いちばん読まれないことになります。
聞く項目そのものは、特別なものではありません
誤解のないように書いておくと、私たちが聞く項目が特別なわけではありません。
聞かないことはありません。ざっくばらんに、一通り伺います。項目そのものは、ほかの制作会社と同じだと思います。
違うのは、同じ項目を聞いたあとに何を持ち帰るかです。
| 持ち帰るもの | |
|---|---|
| 書類だけを見た場合 | 項目と、その回答 |
| 読み合わせをした場合 | 項目と、回答と、その会社の中での順位 |
順位が分かっていると、迷ったときの判断が変わります。作っている途中で必ず、どちらを立てるか決める場面が来ます。そのとき、最初に口に出された話のほうを立てます。
聞ききれなかった部分は、経験で埋めます
45分で全部を聞ききれるわけではありません。足りない部分は、これまでの似た案件から補っています。
補った部分が外れていないかは、1週間後のデモで確認します。 全ページ分を、文章と写真が入った状態でお出しします。外れていれば、その場で分かります。
「あのヒアリングで、ここまでできるの?」
デモをお見せしたときに、よく言われる言葉です。45分で足りているのではなく、45分で足りない分を回収する場を後ろに置いてある、というほうが正確です。
どの項目を書いてどれを書かないかは34項目の仕分けに、要件定義そのものの考え方はWebサイトの要件定義とは何かに書いています。
デモから公開までは、そこからさらに1.5〜2か月かかります。速いのは、作業の速さではありません。
発注する側にとって、これが何を意味するか
作る側がどこを見ているかが分かると、準備の方向が変わります。
書く量を増やしても、重要度は伝わりません。
むしろ、長く書くほど読み流される場所があります。時間をかけて大枠の目標を推敲するより、次の3つのほうが、はるかに効きます。
- – 打ち合わせで、気になっていることから話し始める
- – 長く話したくなった項目は、遠慮せず長く話す
- – 「うまく言えないのですが」の前置きは、そのまま言っていただく
3つ目は特にそうです。うまく言えない話ほど、まだ言葉になっていない本音であることが多く、深掘りする価値があります。
そして、これは準備しなくてもできることです。書類を整えるより先に、話す時間を取っていただくほうが早い、というのはそういう意味です。
どこまで揃えてから相談すべきかは制作会社に渡す情報は、どこまで揃えてから相談すべきか、サンプルを見て止まる話は要件定義書のサンプルを見て、逆に手が止まる理由に書きました。
向くケース・向かないケース
この考え方が役に立つケース
- – 要件定義書を書き始めたが、どこに力を入れるべきか分からない
- – 社内で目的の文言を練り続けていて、進まない
- – AIで要件定義書を作ったが、分量が多くて自分でも読み返していない
- – 制作会社に「ちゃんと書けているか」を心配している
この記事だけでは足りないケース
- – 複数社に同一条件で配って、書面だけで比較したい
- – こちらと直接話す機会が持てない体制になっている
1つ目の場合は、書類の側で順位を伝える必要があります。項目に優先度をつけて渡す、という一手間が要ります。
2つ目は、私たちにとって唯一むずかしいケースです。読み合わせができないと、順位が分からないまま作ることになります。
締め
要件定義書のどこが重要かは、書類を見ても分かりません。読み合わせで、最初に口に出された項目と、説明が長くなった項目に出ます。
大枠の目標は、長く書くほど読まれません。そこは打ち合わせで深掘りします。細かい条件のほうが、書いてあると助かります。
ですので、書く量を増やす準備は要りません。そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。