要件が固まらないまま進めた案件は、その後どうなったか
要件定義と発注の実務|準備と、進め方 8本目 全8本
目 次
要件が固まらないまま進めた案件が、あとから破綻した——という経験は、私たちにはありません。
ただ、それは「何も決めなくていい」という意味ではありません。決める場所と順番を変えているだけです。
紙の上で決める代わりにデモの画面の上で決めて、公開後はアクセスの数字を見ながら決めていきます。
要件が固まらないまま進めた案件は、実際どうなったか
正直に書きます。特に困っていません。
「要件が甘いまま進めると、あとで痛い目を見る」という話はよく聞きますし、理屈としては分かります。ただ、私たちの案件でそれが起きた記憶がありません。
公開のとき、こういう連絡をいただいたことがあります。
「いろいろさまざまな要望や変更に応えてもらいありがとうございます」
要望や変更が多かったことを、お客さまご自身が書いてくださっています。 そのうえで、感謝で終わっています。
決まっていない状態から始めて、途中で何度も変わって、それでも困っていない。これが実際のところです。
なぜ、破綻しないのか
理由は、私たちが優秀だからではありません。破綻しないような作り方をしているからです。
具体的には5つあります。
1. 聞ききれなかった部分は、デモで答え合わせする
45分のヒアリングで聞ききれなかった部分は、これまでの案件から補って一度形にします。そして1週間後に全ページ分のデモをお出しして、そこで確認していただきます。
外れていれば、その場で分かります。分かればその場で直します。
2. デザインは、言葉で決めない
「シンプルで」「高級感のある」といった言葉は、人によって指すものが違います。言葉で決めようとすると、出来上がるまでズレが分かりません。
私たちは、参考にしたいサイトを1本いただいて、そこで答え合わせをします。解釈違いの事故が、そもそも起きません。
3. 実装は、揺れる余地をなくしてある
固定ページもブロックエディタで編集できる仕組みを、自社で開発して使っています。作り方が案件ごとに変わらないので、認識のズレが起きにくく、あとから直すのが軽い。
早く出したものを直すのが怖くないのは、これがあるからです。
4. 公開後は、ご自身で調整できます
会社案内もサービス紹介も採用ページも、お知らせと同じように編集できます(コーディング仕様書に、書くことがほとんどない理由)。
公開後に自分で直せる範囲は、作り方で決まります。お知らせだけは自分で更新できて、他のページは制作会社に頼む——そういう形になっていることは、よくあります。
5. 公開後1〜2年、アクセスを一緒に見ます
ご希望の方には、公開後もアクセス解析と記事制作をお手伝いしています。月に一度、数字を一緒に見る場を持ちます。
ここが、もうひとつの答え合わせの場になっています。
答え合わせは、2段構えになっています
整理すると、こうなります。
| 段 | いつ | 何を直すか |
|---|---|---|
| 1段目 | 1週間後のデモ | 聞ききれなかったこと |
| 2段目 | 公開後1〜2年の報告会 | 作る前には分からなかったこと |
要件定義で全部決めなくていい本当の理由は、ここにあります。
決めなかったことを決める場が、あとに用意してあるからです。
そして2段目でしか出てこないものが、実際にあります。
採用サイトを公開したお客さまから、しばらくして言われたことがあります。
「社員インタビューをどんどん増やしたい」
社員インタビューを何本載せるか——これを要件定義の段階で決めるのは、無理があります。作って、公開して、反応を見て、初めて「もっと欲しい」になります。
いちばん効いた要素が、要件定義書に書けなかった要素だった、ということが起こります。
公開後の報告会で、何が起きているか
もう少し具体的に書きます。
月に一度、アクセスの数字を一緒に見ます。ただ、順位やPVを並べても、なかなかお客さまの話になりません。
盛り上がるのは、数字とオフラインの出来事が重なったときです。
「先週の見学会の翌日、アクセスが跳ねています」——こうなると、ご自身が知っている出来事と数字がつながります。数字が自分のものになる瞬間です。
一度つながると、次は逆向きに動きます。「じゃあ次の行事の前に、このページを作っておこう」と。
どの行事が効くかは、正直、やってみないと分かりません。行事によって違います。分からないから、毎月見ています。
そうしているうちに、追加ページの要望が自然に増えていきます。
これは「決めなくていい」という意味ではありません
ここが、いちばん誤解されたくないところです。
決めています。 決める場所と順番が違うだけです。
| 決める場所 | |
|---|---|
| 一般的な進め方 | 紙の上(着手前) |
| 私たちの進め方 | 画面の上(デモ)→ 数字の上(公開後) |
デモをご覧いただくと、たくさんの指摘が出ます。「この見出しは違う」「ここは写真をもっと大きく」「この順番を入れ替えたい」——これは、要件定義書に書かれるはずだった内容と、ほとんど同じです。
違うのは、実物を見ながら言えることだけです。
ですので、「何も考えずに丸投げできる」という進め方ではありません。判断はしていただきます。負担が軽いのは、判断が具体的なものに対して行われるからです。
ひとつだけ、なんとかならないこと
ここまで「決まっていなくて大丈夫」「イメージが湧かなくて大丈夫」と書いてきました。
正直に書くと、大丈夫でないことが1つだけあります。
話が届かないことです。
私たちの進め方は、出したものに反応が返ってくることに、全面的に依存しています。デモをお見せして、「ここは違う」と言っていただく。それがあって初めて、答え合わせが成立します。
反応が返ってこないと、仕組みの前提が抜けます。
実際にうまくいかなかった案件も、これでした。間に入った方とやり取りをする形になっていて、そのやり取りが噛み合わなかった、というケースです。決められないお客さまだったわけでも、要件が甘かったわけでもありません。届かなかっただけです。
間に人が入ること自体は、問題ありません。営業を担当される会社や代理店の方と一緒に進める案件も、普段から多くあります。大事なのは、話が通っているかどうかのほうです。
ですので、ご相談のときに私たちが確認したいのは、書類の完成度ではありません。やり取りができる状態かどうかです。
デザインの決め方は参考サイト1本のほうが正確です、言葉にできない状態からの進め方は「イメージが湧かない」まま、進める方法があります、全体の日程は要件定義から公開まで、実際のスケジュールを出しますに書いています。
向くケース・向かないケース
この進め方が合うケース
- – 何から決めればいいか分からない
- – 決めきる自信がなく、見てから判断したい
- – 公開後に、様子を見ながら育てていきたい
- – 社内に専任の担当者がいない
合わないケース
- – こちらと直接やり取りができない体制になっている
- – 着手前に、書面で仕様を確定させる必要がある
- – 稟議や入札で、承認を得てからでないと作業に入れない
- – 完成したものを一度で受け取りたい。途中のやり取りを最小限にしたい
1つ目が、いちばん大事です。書類の有無より、こちらのほうが決定的です。
4つ目についても書いておくと、私たちの進め方は、やり取りの回数が少ないわけではありません。 資料をお作りいただく必要はありませんが、打ち合わせには出ていただきますし、デモや原稿は見ていただきます。まったく関わらずに完成させてほしい、というご要望には向いていません。
締め
要件が固まらないまま進めた案件は、その後、特に困っていません。
理由は、決めなくていいからではなく、決めなかったことを決める場が、あとに用意してあるからです。1週間後のデモと、公開後の報告会。答え合わせが2段構えになっています。
そして、この進め方が成立しない条件は1つだけです。話が届かないこと。
逆に言えば、話ができる状態であれば、あとは何も決まっていなくて構いません。
そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。