要件定義書を求める制作会社と、求めない制作会社の違い
要件定義と発注の実務|書類そのものの話 6本目 全6本
目 次
要件定義書を求める制作会社と、求めない制作会社がいます。違いは技術力や丁寧さではなく、進め方の構造です。
求める会社には求めるだけの理由があり、その理由は正当です。求めない会社は、書類が担っていた役割を別の仕組みで引き受けています。
どちらが向くかは、発注される側の状況で決まります。見分け方は、初回のやり取りでだいたい分かります。
要件定義書を求める制作会社が、求める理由
まず、こちらから書きます。書類を求めるのには、はっきりした理由があります。
| 理由 | 中身 |
|---|---|
| 並行案件が多い | 同時に何本も動かす体制だと、担当者の記憶に頼れません。書面が要ります |
| 見積の精度 | 書かれていないものは見積れません。範囲が定まらないと金額が出せません |
| 合意の記録 | あとで食い違ったときに、開いて確認できるものが必要です |
| 引き継ぎ | 担当が変わっても続けられるように |
| 距離がある | 発注元と制作の現場が離れている場合、書面以外に伝える手段がありません |
どれも、まっとうな理由です。特に規模の大きい案件や、複数社が関わる案件では、書類がないほうが危ないと思います。
「要件定義書を出してください」と言われたら、その会社が不親切なわけではありません。 そういう体制で動いている、というだけです。
要件定義書を求めない制作会社が、求めない理由
私たちは求めないほうです。理由を書きます。
要件定義書を持ってきてくださったお客さまと、持たずに来られたお客さまで、進み方がそんなに変わらなかったからです。22年、年間40本ほどのペースで作ってきた実感です。
持ってきていただいた書類は、ちゃんと使います。読みますし、気になる点はお伝えします。ただ、進行の速さは変わりませんでした。
理由は、書類が担っていた役割を、別の場所で引き受けているからです。
| 書類が担うもの | 私たちの場合 |
|---|---|
| 認識合わせ | 1週間後のデモ(全ページ分・文章と写真入り) |
書類の5つの役割をデモがどこまで引き受けられるかは、要件定義書を書く代わりに、デモを見る。何が変わるかに書きました。
| 見積の根拠 | 同上。見えているものが、そのまま量です |
|---|---|
| 決めきれない部分 | あとから直せる作りにしてあります |
「要らない」のではなく、「別の場所で済んでいる」というのが正確なところです。
要件定義書がないと、何で比べればいいのか
ここは当然の疑問だと思います。
複数社を検討するとき、要件定義書があれば条件を揃えて比べられます。無い場合、何を見て判断するのか。
答えは、デモです。 私たちの場合、ご相談から1週間で全ページ分をお出しします。
そして、比べる相手が変わります。
デモをご覧いただいたときに、こう言っていただいたことがあります。
「これでも今のサイトより全然いいよね」
このとき、比較されているのは他社の提案書ではありません。今、自社が持っているサイトです。
これはリニューアルのご相談で、よく起きます。他社と横に並べて優劣をつける前に、「今より良くなるのか」がまず分かる。判断としては、こちらのほうが実際的だと思います。
実際に提案書からデモ先行に切り替えて何が起きたかは、デモ先行に切り替えて、受注率が10%前後から20%前後になりましたに書きました。
もちろん、条件を揃えて複数社を比較したいという場合はあります。その場合は書類が要ります。私たちにご依頼いただければ、45分お話を伺ったあとに、こちらで下書きを作ります(記入例つきのテンプレートも配布しています)。書いていただく作業はありません。
どちらのタイプかは、初回のやり取りで分かります
見分け方を書きます。難しいことはありません。
最初に連絡したときに、何を求められるかを見てください。
| 言われること | その会社の進め方 |
|---|---|
| 「要件をまとめた資料はありますか」 | 書類を起点に進める体制 |
| 「一度お話を聞かせてください」 | 読み合わせを起点に進める体制 |
| 「まず概算をお出ししますので、仕様を」 | 見積を先に固める体制 |
| 「一度、形にしてお持ちします」 | 現物を先に出す体制 |
繰り返しますが、どれが優れているという話ではありません。
見るべきなのは、その進め方が自社に合うかです。
- – 資料を作る時間が取れるか
- – 社内の確認が、どのくらいの速さで回るか
- – 完成形のイメージを、今持てているか
- – 書面で残す必要がある手続きが、社内にあるか
このあたりで、合う・合わないが決まります。
正直に書いておくこと
2つあります。
私たちは、営業が得意な会社ではありません
うまく説明して決めていただく、ということができません。これは事実として書いておきます。
デモを先にお出しするのは、その代わりというよりも、お客さまがイメージを持てないまま進んでしまうのを避けるためです。見ていただければ、こちらが説明する必要がありません。
断られた理由は、たいてい教えていただけません
ご相談をいただいて、そのままになることはあります。そのとき、なぜ選ばれなかったのかは、ほとんど分かりません。
ですので、「求めない会社のほうが選ばれやすい」という書き方はしません。そう言えるだけのデータを、私たちは持っていません。
分かっているのは、進め方を変えてから、決まる件数が増えたということだけです。
両方に頼む、という選択もあります
意外に思われるかもしれませんが、要件定義と制作を別々の会社に頼む進め方もあります。
書類が先に必要な事情(入札・稟議・複数社比較)があるなら、これは合理的です。私たちも、要件定義だけのご依頼はお受けしています。
その場合に確認しておいたほうがいいことが3つあるのですが、長くなるので別の記事に書きました。
要件定義だけを外注する場合は要件定義だけを外注できるか、書類なしで進む理由は要件定義書がなくても、Web制作は進みます、リニューアルの場合はサイトリニューアルの要件定義に書いています。
向くケース・向かないケース
求めない会社(私たちのような進め方)が合うケース
- – 書類を作る時間が取れない
- – 完成形のイメージがまだ湧いていない
- – 社内の確認に時間がかかる体制になっている
- – リニューアルで、今より良くなるかをまず知りたい
求める会社のほうが合うケース
- – 入札や、書面での取り決めが必要な手続きがある
- – 複数社を同一条件で比較したい
- – 発注元と利用部門が分かれていて、経緯を残す必要がある
- – 社内に、要件を書ける方がいらっしゃる
どちらでも難しいケース
- – 制作会社と直接やり取りができない体制になっている
私たちの進め方は、出したものに反応が返ってくることに全面的に依存しています。反応がないと、答え合わせが成立しません。ここは、こちらでは埋められない部分です。
締め
要件定義書を求めるかどうかは、制作会社の優劣ではありません。進め方の構造の違いです。
求める会社には、並行案件・見積の精度・記録・引き継ぎという理由があります。求めない会社は、書類の役割を別の場所で引き受けています。私たちの場合は、45分のヒアリングと、1週間後のデモです。
どちらが向くかは、御社の状況で決まります。判断がつかない段階でも構いません。そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。