御社が使っているもので進めます
要件定義と発注の実務 | キューポイントのやり方 4本目 全5本
目 次
制作が始まるとき、こう言われることがあります。
「弊社のプロジェクト管理ツールに登録をお願いします」
うちは、これをお願いしません。
御社がふだん使っているもので進めます。 メールならメール、チャットならチャット、電話が早ければ電話です。
宿題は、宿題の顔をして出てこない
私は「お客さまに宿題を出さない」と言っています。原稿を書いてください、写真を選んでください、といったお願いをしません。
ただ、いちばん見落とされる宿題は、宿題に見えない形で出てきます。(宿題そのものの話は要件定義書がなくても、Web制作は進みますに書きました)
- 「アカウントを作っておいてください」
- 「共有フォルダにアップしておいてください」
- 「このシートに記入をお願いします」
- 「チャットで確認しておいてください」
どれも「ちょっとしたこと」の顔をしています。
でも実際には、こういうことです。
| お願いしていること | 実際に起きること |
|---|---|
| ツールに登録 | 使い方を覚える。通知の設定をする。パスワードを管理する |
| 共有フォルダ | 場所を覚える。開けなくて連絡する |
| チャットの確認 | 見る場所が1つ増える。見落とす |
そしてそのプロジェクトが終わったら、二度と使いません。
数か月のために覚えるものが、いちばんもったいない宿題です。
実際に、どこまで合わせているか
抽象的な話になりそうなので、先に実物を書きます。
これまで実際に進行に使ったものです。
- LINE/LINE WORKS
- Chatwork
- Slack/Teams
- メールと電話だけ
最後のものが、いちばん多いかもしれません。チャットを使っていない会社は、まだたくさんあります。
そういう会社にこそ、制作会社は自社ツールを勧めたくなります。 「そのほうが効率がいいので」と。私も、その理屈は分かります。
ツールは、誰のためのものだったか
制作会社がツールを導入するのは、たいてい「効率化のため」です。これは本当です。
ただ、効率化されるのは制作会社側です。
- やりとりが1か所にまとまる
- 誰が何を言ったか残る
- 担当者が変わっても引き継げる
全部こちら側の都合です。 お客さまにとっては、慣れない場所が1つ増えるだけのことがあります。
これも、他社さんが悪いという話ではありません。理屈は通っています。 ただ、負担がどちらに乗っているかというと、乗っているのはお客さま側です。
なぜ、うちは合わせられるのか
ここが、この記事でいちばん書きたかった部分です。
うちが相手に合わせられるのは、親切だからではありません。体制が変わったからです。
うちは以前、分業でやっていました。ディレクターがいて、デザイナーがいて、コーダーがいる。この形だと、情報を1か所に集める必要があります。
なぜなら、引き継ぎが発生するからです。
ディレクターが聞いた話を、デザイナーに渡す。
デザイナーが決めたことを、コーダーに渡す。
このとき、情報がバラバラの場所にあると回りません。 だからツールで1か所にまとめる。必然です。
分業をやめたのは、思想の話ではありません
正直に書きます。採算が合わなくなったからです。
制作の単価は、この十数年で下がりました。それ自体は、うちの努力でどうなるものでもありません。
問題は、下がったのに、ディレクションのほうは増えていたことです。
分業でやる以上、引き継ぎは必ず発生します。 聞いた話を渡す、決まったことを伝える、認識がずれていないか確かめる。これは全部必要な仕事です。ただ、画面が1ミリも進まない仕事でもあります。
単価が下がる中で、その工数だけが積み上がっていきました。そこで採算が合わなくなりました。
だから、分業をやめました。ひとりが最初から最後まで持つ形にしました。
お客さまのためではありません。続けられなかったからです。
そうしたら、ツールが要らなくなりました
分業をやめて、しばらくしてから気づきました。
| 引き継ぎ | 情報を集める必要 | 相手に合わせられるか | |
|---|---|---|---|
| 分業 | ある | 必要 | 難しい |
| 一気通貫 | ない | 不要 | できる |
渡す相手がいなければ、情報を1か所に集める理由がありません。 どこでやりとりしていても、聞いた本人がそのまま作るので、困らない。
「御社のやり方に合わせます」は、心がけではありません。
引き継ぎをなくしたら、どこで進行しても困らなくなった。それだけです。
そして念のため書いておくと、これは狙ってやったことではありません。 合わせるために分業をやめたのではなく、分業をやめたら合わせられるようになったという順番です。
何が散らかったか
そのかわり、うちの中は散らかっています。
案件ごとに、連絡している場所が違います。この案件はChatwork、この案件はLINE、この案件はメールだけ。まとめて一覧で見ることはできません。
これは、はっきり非効率です。
それでもこうしているのは、散らかるのがこちらの中だけで済むからです。お客さま側に負担を移すよりは、こちらが散らかっているほうがいい。それだけの判断です。
まとめ
- ツールへの登録は、宿題の顔をしていない宿題
- 数か月のために覚えるものが、いちばんもったいない
- 制作会社のツールは、制作会社のために必要(引き継ぎがあるから)
- 分業をやめたのは、採算が合わなくなったから。 思想ではありません
- やめてみたら引き継ぎが消えて、結果として合わせられるようになった
- 代わりに、うちの中は散らかっている