原稿をお待ちしません
要件定義と発注の実務 | キューポイントのやり方 2本目 全5本
目 次
ホームページを作るとき、たいていこう言われます。
「原稿と写真をご用意ください」
これが、この業界の標準です。というより、私が始めた頃は、原稿は先方支給が当たり前でした。 私もそう言っていました。
いまは言いません。原稿は、こちらで書きます。
なぜ「ご用意ください」になるのか
先に書いておきたいのですが、これは他社さんの手抜きではありません。
その会社のことを、いちばん知っているのはその会社の方です。だから書いていただくのが正しい、という理屈は通っています。私も長いあいだ、そう思っていました。
ただ、渡された側から見ると、こうなります。
本業のあとに、書く。
現場から戻って、見積を作って、電話に出て、そのあとに「弊社の強み」を600字。
書けないのではありません。順番が来ないんです。
そして、こちらも止まります
ここがあまり語られない部分だと思います。
原稿を待っているあいだ、制作側も止まっています。
文章が入らないと、レイアウトが決まりません。ページの分量が決まらないと、写真の点数も決まりません。待ち時間は、両方が止まっている時間です。
そして厄介なのは、この時間が誰の責任にもならないことです。
- 制作会社「原稿をお待ちしています」
- お客さま「すみません、今週中には」
どちらも間違っていません。 誰も悪くないまま、1か月が過ぎます。
いちばん長いときで、数か月止まりました
具体的に書きます。
原稿を待って、数か月動かなかった案件があります。 制作の作業量の問題ではありません。文章が来ないので、その先に進めなかった。それだけです。
念のため書いておきますが、これはお客さまが悪い話ではありません。
そのとき私がやっていたのは、「社内に、原稿を書く時間のある人がいる」という前提で工程を組むことでした。その前提が成り立つ会社もあります。成り立たない会社のほうが多い、というだけです。
前提を間違えたのは、こちらです。
そして数か月というのは、お客さまの時間だけの話ではありませんでした。その間、こちらの手も止まっています。待ち時間は、両側から食べていきます。
私が見てきた限り、サイト制作が遅れる原因のいちばん大きいものは、これです。作る速さではなく、待ち時間のほうです。
だから、待たないことにしました
原稿は、こちらで書きます。
材料は、そのときあるものを使います。毎回同じではありません。
| 元にするもの | |
|---|---|
| 最初の45分でうかがった話 | いちばん大きい材料です |
| いまのサイト、会社案内、パンフレット | すでに言葉になっているものは全部使います |
| 現場の写真、これまでの施工事例 | 事実はここに入っています |
社内に文章が溜まっている会社なら、そこから起こします。ほとんど何もない会社なら、取材で聞いた話から書きます。どれを使うかは、その会社によります。
これで、全ページ分の文章を先に書いてしまいます。 そして1週間後に、文章が入った状態のデモをお見せします。
ここが大事なところなのですが、私が書いた文章が正しいとは思っていません。
外れているところは、必ずあります。だから見ていただいて、違うと言っていただくための1週間です。
「書く」より「直す」ほうが、ずっと速い
白い紙に600字書くのは、大変です。
でも、目の前にある600字のうち、違う1行を指すのは簡単です。
「ここ、うちは自然素材が売りみたいに書いてありますけど、
実際は断熱のほうを見てもらいたいです」
この一言で直ります。 30秒です。
同じことを白い紙からやろうとすると、何日もかかります。やっていることは同じなのに、順番が違うだけで負担がまったく変わります。
お願いするのは、45分だけです
打ち合わせからの流れは、こうなります。
| 最初のお打ち合わせ | 45分 |
| その1週間後 | 文章と写真の入ったデモをお見せします |
| そこから | 見て、違うところを教えていただきます |
| 公開まで | キックオフから1か月半〜2か月 |
こちらからお願いするのは、最初の45分だけです。45分の中身は要件定義のヒアリングは45分ですに書いています。
そのあとにお客さまがすることは、出てきたものを見て、違うと言っていただくことです。書いていただくことも、集めていただくことも、締切をお預けすることもありません。
何が増えて、何が減ったか
原稿をこちらで書くということは、取材して、調べて、書いて、確認していただく工程がまるごと増えるということです。待っていれば届いていたものを、自分で作っています。
それでもこちらでやるのは、そのほうが早く終わるからです。
待ち時間は、誰の手も動いていない時間です。そこを消したほうが、全体としては短くなります。 うちの手が動いている時間は増えましたが、お客さまの止まっている時間はなくなりました。
では、増えた分はどこへ行ったのか。その話は、この連載の5本目で書きます。
まとめ
- 原稿が届かないのは、書けないからではなく、順番が来ないから
- 待ち時間は、両方が止まっている時間。いちばん長いときで数か月止まりました
- 止まったのは、書く時間のある人が社内にいる前提で組んでいた、こちらの問題
- だから先にこちらで書いて、1週間後に見ていただく
- 白紙に書くより、違うところを指すほうが速い
- お願いするのは、最初の45分だけ
うちからお願いすることは、ほとんどありません。