要件定義書のサンプルを見て、逆に手が止まる理由
要件定義と発注の実務|書類そのものの話 5本目 全6本
目 次
要件定義書のサンプルを探して、見つけて、開いて、そのまま閉じた。 そういう方は多いと思います。
手が止まるのは自然なことです。サンプルは決まったあとの姿であって、決めるための手順書ではないからです。
完成した書類をいくら眺めても、自分の会社の場合に何をどう書けばいいかは出てきません。
要件定義書のサンプルで、よくある止まり方
書けないのではなく、出せない。 サンプルを開いたあと、だいたい次のどれかになります。
- – 1ページ目で止まる。 「サイトの目的」の欄が立派すぎて、同じ水準で書ける気がしない
- – 全体を眺めて閉じる。 項目が多く、どこから手をつければいいのか分からない
- – 半分ほど埋めて放置する。 書けるところだけ埋めたが、残りが埋まらないので出せない
3つ目がいちばん多いように思います。書けないのではなく、出せないという状態です。
サンプルを見ると手が止まる、3つの理由
1. サンプルには、決める過程が載っていません
サンプルは、すでに決め終わった会社の書類です。
そこに書かれているのは結論だけで、どうやってその結論にたどり着いたかは残っていません。 どの項目から考え始めたのか、途中で何を変えたのか、何を捨てたのか——決める作業に必要な情報は、完成した書類からは消えています。
料理の完成写真を見ても、手順は分からないのと同じです。
2. 出どころが、大きな開発案件のことがあります
インターネットで見つかる要件定義書のサンプルは、システム開発向けのものが少なくありません。業務システムや基幹システムを想定した書式です。
そうした案件では、関わる人数も多く、後戻りの費用も大きいため、書類が厚くなるのは当然です。
ただ、会社案内や採用サイトを作るのに、同じ厚みの書類は要りません。過剰な書式を前にして手が止まっているだけ、という場合があります。
3. 「目的」の欄が、立派に書かれています
サンプルの1ページ目には、たいてい目的や背景が長く書かれています。よく整った文章です。
そして、それを見た方は「同じように書かなければ」と思われます。ここで止まります。
私たちの経験を正直に書くと、目的の欄は、長く書かれているほど読まれません。
打ち合わせでも、そこは深掘りして伺う項目なので、書かれた文章をなぞって確認することはしません。「なんでそう思われたんですか」と直接お聞きするほうが、はるかに具体的な話が出てきます。
つまり、いちばん手が止まりやすい欄が、いちばん書く意味の薄い欄だったりします。要件定義そのものの考え方はWebサイトの要件定義とは何かに書いています。
要件定義書のサンプルには、別の使い道があります
埋めるための見本ではなく、何を聞かれるのかを知る目次として使ってください。
捨てなくて大丈夫です。見方を変えると使えます。
| ❌ 埋めるための見本として見る | 完成度が高いので、比べると手が止まります |
| ⭕ 何を聞かれるのかを知る目次として見る | 「こういうことを聞かれるのか」が分かれば十分です |
目次として見るなら、埋める必要はありません。
打ち合わせで何を聞かれるのか、事前に分かっているだけで、当日の話は速く進みます。サンプルの本当の価値は、そこにあると思っています。
「サンプル」と「記入例」は別のものです
手が止まる原因になるのは、サンプルのほうです。 紛らわしいので、分けて書いておきます。
| 何が載っているか | |
|---|---|
| サンプル | よその会社の、完成した書類 |
| 記入例 | 自分の会社の場合、どう書けばいいかの例 |
手が止まる原因になるのは前者です。後者は、止まりません。
私たちが配布している要件定義書テンプレート【記入例つき】は、後者の形にしています。全34項目に記入例をつけ、さらに「必ず要ります/あると助かります/こちらで引き受けます」の判定を入れました。
書いていただきたいのは、34項目のうち11項目です。そして、長く書いていただきたい項目は、ひとつもありません。
AIで作ると、サンプルのようなものは一瞬でできます
形は整いますが、手が止まる原因は消えていません。
最近、生成AIで作った要件定義書をお持ちいただくことが増えました。
これは、ある意味でサンプル問題の裏返しです。サンプルのような立派な書類が、数分で手に入るようになりました。
ただ、手が止まる原因が消えたわけではありません。形は整いますが、分量が多くなり、ご本人も最後まで読み返していないことが多いからです。
それでも、その書類は嘘ではありません。AIに投げる前の元の言葉はご本人のものなので、芯は本物です。AIが肉をつけすぎているだけです。
捨てなくて大丈夫です。「これは自分の言葉だ」と思える部分だけ拾い直せば、それで十分に使えます。
サンプルが埋まらないままでも、進められます
埋まらなかった部分は、デモを見ながら決めていきます。
ご相談のとき、いちばん多く聞く第一声があります。
「ホームページについて、全然詳しくないんですが」
詳しくなくて構いません。サンプルを開いて閉じたところで止まっている、という状態のまま相談に来られる方は多いです。イメージが湧かない状態については「イメージが湧かない」まま、進める方法がありますに書きました。
私たちは45分のヒアリングを行い、1週間後に全ページ分のデモをお見せします。埋まらなかった部分は、デモを見ながら決めていきます。
書類を完成させてから、という順番を取っていません。
向くケース・向かないケース
この記事が当てはまるケース
- – サンプルを見つけたが、開いて閉じた
- – 半分埋めて、そのままになっている
- – 目的の欄で止まっている
- – AIで作ってみたが、これでいいのか分からない
当てはまらないケース
- – 稟議や入札で、決まった書式の提出が必要
- – 既存システムとの連携があり、条件の整理が先に要る
この2つは、書類そのものが目的になるケースです。この場合は作る必要があります。ただ、お客さまだけで完成させていただく必要はありません。ヒアリングのあと、こちらで下書きをお作りします。
締め
サンプルを見て手が止まるのは、準備不足でも能力不足でもありません。完成品を見ても、作り方は分からないというだけです。
サンプルは目次として使ってください。埋める必要はありません。
そして、埋まらないまま相談に来ていただいて大丈夫です。書類がまったくない場合の進み方は要件定義書がなくても、Web制作は進みますに書いています。
そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。