デザイン要件定義書は必要か。参考サイト1本のほうが正確です
要件定義と発注の実務|書類そのものの話 3本目 全6本
目 次
デザイン要件定義書は、多くの場合、作らなくて構いません。
デザインの方向性を言葉で書き出すより、参考にしたいサイトを1本お持ちいただくほうが、はるかに正確に伝わるからです。
私たちがお客さまに出す宿題は、参考サイト1本だけです。
デザイン要件定義書とは
デザインの方向性や条件を、あらかじめ文章で定めておく資料のことです。
だいたい、こういった項目が並びます。
- – デザインコンセプト
- – ブランドイメージ(キーワードで3つ、など)
- – 配色の方針
- – トーン&マナー
- – 参考にしたい印象
制作会社によっては、これを発注側に書いてくださいと依頼することがあります。
正直に書くと、私たちはこの書類を求めていません。求めないほうが、結果が良くなるからです。
デザイン要件を言葉で書くと、なぜずれるのか
理由は単純です。形容詞は、人によって指しているものが違うからです。
たとえば「シンプルなデザインで」というご要望。この一言で、次のどれを思い浮かべるかは人によります。
- – 余白が大きく、写真が大きく、文字が少ないサイト
- – 装飾がなく、文字だけが整然と並んでいるサイト
- – 色数が少なく、白と黒だけで構成されたサイト
- – 動きがなく、静かに読めるサイト
全部「シンプル」です。そして、この4つはまったく違う見た目になります。
「高級感のある」「信頼感が伝わる」「親しみやすい」——どれも同じことが起きます。書くほうも読むほうも真面目に扱っているのに、指しているものが違う。
そして厄介なのは、ずれていることが、出来上がるまで分からないという点です。文章の段階では、両者とも合意できたつもりでいます。
参考サイト1本が、デザイン要件定義書より正確な理由
1ページ見れば、言葉10行ぶんの情報が同時に伝わるからです。
参考サイトを1本いただくと、形容詞の問題が消えます。
1ページ見れば、余白の取り方、写真の大きさ、文字の量、色数、動きの有無が同時に、確定した形で分かるからです。文章に起こすと10行では足りない情報が、URL1本に入っています。
私たちの経験では、言葉どおりに作って外れた、という事故がそもそも起きません。 言葉でデザインを決めようとしていないからです。
このクラスターでは「書かなくて大丈夫です」と書き続けていますが、ここだけは違います。書く代わりに、これを持ってきてください、とお願いしています。
参考サイトの選び方
難しく考えていただく必要はありません。 実務の話を書きます。
何本ですか
1本あれば十分です。 3本まで増やしていただいても構いません。
それ以上になると、逆に方向が読めなくなることがあります。たくさん集めるより、1本を丁寧に選んでいただくほうが助かります。
他業種でもいいですか
むしろ歓迎しています。
同業のサイトばかりを並べると、出来上がるものも同業に似てきます。それが狙いなら構いませんが、差をつけたい場合は逆効果になります。
飲食店のサイトを参考にした建設会社のサイト、というのは普通にあり得ます。「なぜそれが好きなのか」さえ分かれば、業種は関係ありません。
一言だけ、添えてください
これがいちばん重要です。
URLだけでも構わないのですが、「どこが好きか」を一言添えていただけると、精度が大きく上がります。
「写真が大きくて、文字が少ないところ」
「トップページを開いた瞬間の静かな感じ」
「メニューが分かりやすい」
この一言があると、そのサイトの何を持ってきて、何を持ってこないかが決まります。逆に、これがないとサイト全体を真似することになりかねません。
文章にしなくて結構です。打ち合わせで口頭でおっしゃっていただければ十分です。
「これは違う」も、同じくらい効きます
好きなサイトが思いつかない場合、苦手なサイトを教えていただくのも有効です。
「文字がぎっしり詰まっているサイトは、うちのお客さまには合わない気がする」——これだけで、進む方向が半分決まります。
経験上、「好き」より「違う」のほうが、はっきりしていることが多いです。
大きな会社のサイトでもいいですか
構いません。
ただ、その場合は打ち合わせの場で、予算の中でどこまで寄せられるかを正直にお伝えします。 写真の枚数や、動きの作り込みは、費用に直結する部分だからです。
「全部は無理ですが、この部分は寄せられます」という話し方になります。そこを曖昧にしたまま進めると、あとで困るのはお互いです。
参考サイトが、どうしても見つからない場合
それでも構いません。
「見ていないから思いつかない」という状態は普通です。その場合は、打ち合わせでこちらから何本かお見せして、その場で「これは違う」「これは近い」と反応していただきます。
判断はできるが、先に挙げるのは難しい——これはよくあることです。ゼロから思い出していただく必要はありません。この状態については「イメージが湧かない」まま、進める方法がありますに書いています。
そして最終的には、1週間後にお出しする全ページ分のデモで答え合わせをします。参考サイトは、そのデモの精度を上げるためのものであって、これが揃わないと始まらない、というものではありません。
なぜ、参考サイトだけは宿題としてお願いするのか
ここだけは、こちらが代わりに用意できないからです。
私たちの基本は、お客さまに宿題を出さないことです。要件定義書も、サイトマップも、詳細な仕様書も、書いていただかなくて進みます(34項目の仕分けにまとめています)。
その中で、参考サイトだけは毎回お願いしています。
理由は、ここだけは代わりに用意できないからです。
ページの構成も、文章も、機能の整理も、こちらで案を出せます。でも「御社がどう見られたいか」だけは、こちらが決めるものではありません。かといって、言葉で伺うと正確に取れない。
だから、URLでいただいています。いちばん軽い形の、いちばん大事な宿題です。
参考サイトを渡したあとでも、デザインは変えられます
参考サイト選びに、時間をかけすぎないでください。
参考サイトを渡した時点で、すべてが決まってしまうわけではありません。デモをご覧になって「思っていたのと違う」となれば、そこから変えていきます。
公開後にこういう連絡をいただいたことがあります。
「いろいろさまざまな要望や変更に応えてもらいありがとうございます」
変更が多かったことを、お客さまご自身が書いてくださっています。それでも困っていません。先に完璧に決めるのではなく、あとで直せる状態を先に作っているからです。実際に固まらないまま進めた案件は要件が固まらないまま進めた案件は、その後どうなったかに書きました。
参考サイト選びに、時間をかけすぎないでください。1本で、間違っていても構いません。
向くケース・向かないケース
この進め方が合うケース
- – デザインの好みを言葉にするのが苦手
- – 社内で「シンプルに」「今っぽく」といった言葉が飛び交って、決まらない
- – 見れば判断できるが、先に挙げるのは難しい
合わないケース
- – ブランドガイドラインが厳密に定まっていて、そこから外れられない
- – デザインの承認プロセスが決まっていて、文書化が求められる
この2つの場合は、デザイン要件を文書にする必要があります。その場合も、お客さまだけで書いていただく必要はありません。ヒアリングのあと、こちらで下書きをお作りします。
すでにガイドラインをお持ちの場合は、そのデータをいただければ十分です。改めて書き起こしていただかなくて結構です。
締め
デザイン要件定義書は、多くの場合、作らなくて構いません。形容詞は共有されないので、文章にした分だけ、ずれる余地が増えるからです。
代わりに、参考にしたいサイトを1本、お持ちください。「どこが好きか」を一言添えていただければ、それで十分です。
見つからなければ、それでも構いません。打ち合わせでこちらからお見せします。書類がまったくない場合の進み方は要件定義書がなくても、Web制作は進みますに書いています。
そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。