要件定義書がなくても、Web制作は進みます
要件定義と発注の実務|まず、全体像から 2本目 全4本
目 次
要件定義書がなくても、Web制作は進みます。
私たちは年間40本ほどのサイトを作っています。書類を作ってから来られた方も、何も持たずに来られた方も、進み方はそんなに変わりません。
書類がない場合は、45分のヒアリングと、1週間後のデモが同じ役目をします。
書類がある人とない人で、何が変わるのか
公開までの期間にも、仕上がりにも、差は出ていません。
私たちは22年、Webサイトを作ってきました。今は年間40本ほどのペースです。
その中には、要件定義書をきちんと作ってから相談に来られる方もいれば、「まだ何も固まっていないのですが」という前置きから始まる方もいます。割合でいうと、後者のほうが多いです。
「まったく同じ」とは言いません。書類がある場合、こちらの理解が早い部分はあります。
ただ、公開までの期間や、途中で手戻りが起きる回数といった、実際に困る部分に差は出ていません。
これは持論ではなく、22年ぶんの実感です。
持ってきていただいた書類は、ちゃんと使います
念のため書いておくと、「要件定義書は無駄なので捨ててください」という話ではありません。
いただいた書類は、一通り読みます。気になる点があれば指摘もします。すでに社内で議論された跡が残っている書類は、それ自体が情報です。
ただ、読んで理解するための書類としては使っていません。使っているのは、読み合わせのきっかけとしてです。
情報は、要件定義書ではなく読み合わせから出てきます
書類を前にして説明していただくとき、こちらが見ているのは文章ではなく話し方です。
見ているのは2か所だけです。
- 1. 最初に口に出した項目
- 2. 説明が急に長くなった項目
この2つが、その会社にとって本当に重要な項目です。
そして、書類の構成順とは一致しません。 1ページ目に大きく書かれた項目が最初に語られるとは限りません。逆に、表の一番下に小さく書かれた項目で、急に説明が5分続くことがあります。
そちらが本題です。
どこが重要かは、書類を眺めていても分かりません。 声に出していただいたときに、初めて分かります。
そしてこの見方をしている限り、書類があるかないかは決定的ではありません。
書類がなければ、ないままお話を伺えばいいだけです。最初に何を口にされるか、どこで説明が長くなるか。それは書類の有無に関係なく起きます。
要件定義書がない場合、何がその役目をするか
45分のヒアリングと、1週間後のデモです。 順番に書きます。
1. ヒアリング(45分)
まず45分いただきます。1時間かかりません。
聞く項目を減らしているわけではありません。普通の制作会社が聞くことは、ざっくばらんに一通り伺います。それでも45分で終わります。
聞ききれなかった部分は、これまでの似た案件から補います。
正直に書きますが、褒められた方法ではないかもしれません。ただ、22年ぶん・年間40本の蓄積があると、多くの場合は補えます。
そしてこれは、次の工程とセットではじめて成立する方法です。
2. デモ(1週間)
1週間後に、全ページ分のデモをお出しします。文章や写真も入った状態です。
ここが答え合わせの場になります。経験で補った部分が外れていれば、この場で分かります。分かればその場で直します。
つまり、こういう構造です。
45分で聞く → 足りない分は経験で補う → 1週間後のデモで答え合わせ → 外れていたら直す
補って進めることが乱暴にならないのは、回収の仕組みが先にあるからです。
45分の話だけで1週間後に全ページ分が出せる理由は、なぜ1週間で全ページ分のデモが出せるのかに書きました。
デモをご覧いただいたお客さまから、こんな言葉をいただいたことがあります。
「あのヒアリングで、ここまでできるの?」
驚いていらっしゃる対象が、デモの出来ではなくご自身が話した量だというところが、私たちには嬉しい言葉でした。「あんなに少ししか話していないのに」という含みです。
3. 公開(1.5〜2か月)
デモから調整を重ねて、ご相談から1.5〜2か月ほどで公開します。最短で1.5か月です。
1週間で公開できるわけではありません。 1週間で出るのはデモです。
私たちからお願いするのは、初回の45分と、その後の打ち合わせ数回だけです。残りは私たちが動いている時間です。
Web制作が止まる本当の理由
要件定義書がなかったから止まった、というケースは、私たちの経験ではほとんどありません。
止まるのは、確認が返ってこないときです。
そして確認が返ってくるかどうかは、窓口の方の役職では決まりません。 総務でも広報でも社長でも、止まるときは止まります。
決まるのは、その方が現場を持っているかどうかです。
現場を持っている方は、当然ながら本業が優先されます。こちらからの確認は後ろに回ります。それは仕方のないことですし、責める話でもありません。
つまり――
書類を作っても、確認は速くなりません。
むしろ、書類を作っていただく時間ぶん、着手が遅れます。宿題を出せば出すほど、プロジェクトは止まりやすくなります。
だから私たちは、確認を待たない進め方にしています。待ち時間をゼロにするのではなく、待っている間もこちらは先に進めておく。デモをスタート地点に置いているのは、そのためです。
窓口をどなたにするかについては、ホームページの要件定義、社内の誰が書くべきかに書いています。
決めきらないまま進めて、大丈夫なのか
大丈夫です。 よくいただく心配なので、正直にお答えします。
私たちの案件で、要件が固まらないまま進めて後から破綻した、というケースは出ていません。
ただし、これは「なんとなくで進めても平気」という意味ではありません。あとから直せる状態を先に作っているから成立しています。
具体的には4つです。
| 場面 | やっていること |
|---|---|
| 聞ききれなかった部分 | デモで答え合わせをする |
| デザインの好み | 言葉で決めず、参考サイトで答え合わせをする |
| コーディングの認識ズレ | 独自のCSSシステムを使い、そもそも揺れる余地をなくしてある |
| 公開後の変更 | 固定ページもお客さま自身が調整できるようにしてある |
3つ目と4つ目について補足します。
公開後に自分で直せる範囲は、作り方で決まります。 お知らせだけは自分で更新できて、他のページは制作会社に頼む——そういう形になっていることは、よくあります。
私たちは固定ページもブロックエディタで編集できる仕組みを自社で開発して使っているので、その制約がありません。会社案内もサービス紹介も採用ページも、公開後にご自身で調整できます。
このあたりはコーディング仕様書に、書くことがほとんどない理由に詳しく書いています。
完璧に決めてから作るのではなく、あとで直せる状態を先に作る。
これが、要件定義書がなくても進む理由です。
実際に要件が固まらないまま進めた案件がどうなったかは、要件が固まらないまま進めた案件は、その後どうなったかに書きました。
デモをご覧になったお客さまから、こう言われたことがあります。
「ほぼ全部できてますよね!」
向くケース・向かないケース
向いているケース
- – 何から決めればいいか分からない
- – 社内に専任の担当者がいない。窓口の方が現場を持っている
- – 決めきる自信がなく、完成したものを見てから判断したい
- – 過去に「要件を固めてから来てください」と言われて、そのまま止まっている
向いていないケース
- – 稟議で、着手前に詳細な仕様書の承認が必要
- – 複数社に同一条件で相見積もりを取るため、条件を文書で揃える必要がある
- – 官公庁の入札など、提出形式が指定されている
下の3つは、書類が制作のためではなく手続きのために必要なケースです。この場合は要件定義書を作る必要があります。私たちもその形でお受けできます。
ただ、その場合でも、お客さまだけで書類を完成させる必要はありません。45分のヒアリングのあと、こちらで下書きをお作りします。 それを見ながら整えていくほうが、はるかに早く終わります。
書類が要る場合も、宿題としてお渡しはしません。
それでも書式が欲しい方へ
「まず形から入りたい」という方もいらっしゃると思います。
記入例つきの要件定義書テンプレート【記入例つき】を配布しています。全34項目のうち、書いていただきたいのは11項目です。登録は不要です。
34項目の判定理由は、要件定義書の34項目を「書く/書かない」で仕分けしましたにまとめています。
そして、長く書いていただきたい項目は、ひとつもありません。
締め
要件定義書がなくても、Web制作は進みます。
書類の有無で変わるのはこちらの理解が早いかどうかであって、公開までの期間でも、仕上がりでもありません。私たちが情報を得ているのは書類そのものからではなく、お話を伺っている時間からだからです。
もし今、テンプレートを前にして手が止まっているなら、そこで止まっている必要はありません。
そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。