デモ先行に切り替えて、受注率が10%前後から20%前後になりました
要件定義と発注の実務|デモで決めるということ 3本目 全4本
目 次
提案書と見積もりをお持ちする形をやめて、先に全ページ分のデモをお見せする形にしました。
結果として、受注率が10%前後から20%前後になりました。
上がった理由は、速いからではありません。お客さまが、完成した状態を想像しなくて済むようになったからだと考えています。
提案の進め方を、何から何に変えたのか
変更前と変更後を並べます。
| 変更前 | 変更後 | |
|---|---|---|
| 初回提案でお見せするもの | 提案書・構成案・見積もり | 全ページ分のデモ |
| お客さまがすること | 説明を聞いて、完成形を想像する | 見て、判断する |
| 決まらないときの理由 | 「イメージが湧かない」 | — |
変更前も、手を抜いていたわけではありません。構成案を作り、参考になりそうな事例をお見せし、丁寧にご説明していました。
それでも、決まらないときは決まりませんでした。そして決まらない理由を伺うと、多くの場合「イメージが湧かなくて」でした。
説明を足しても、イメージは湧きませんでした
最初にやったのは、説明を厚くすることでした。
構成案を詳しくする。参考事例を増やす。トップページのデザイン案を1枚作る。——あまり変わりませんでした。
いま振り返ると、当然だったと思います。
お客さまに足りていなかったのは情報ではなく、想像する作業そのものでした。説明を厚くすると、想像しなければならない量が増えます。むしろ逆効果だった可能性すらあります。
だから、想像していただくのをやめました。
提案書をやめて、全ページ分を先に作ることにしました
いまは、45分のヒアリングのあと、1週間で全ページ分のデモをお作りします。文章や写真も入った状態です。トップページのイメージ画像1枚、ではありません。
反応が変わりました。
「これで、ほぼ、公開できるよね」
この一言が出るようになりました。
判断が速くなります。 想像する必要がないので、見た瞬間に「これでいい」「ここは違う」が決まります。そして「ここは違う」が出た場合も、その場で直せば済みます。
決められないのではなく、判断材料がなかっただけだったのだと思います。
受注率が上がったのは、速いからではありません
ここは、誤解されたくないところです。
「1週間でデモが出ます」と書くと、速さが理由に見えます。でも、速さで選ばれている実感はあまりありません。
公開までは1.5〜2か月かかります。一般的なWeb制作が3〜6か月なので短いほうですが、「早く作ってほしい」というご要望で選ばれることは、そう多くありません。
効いているのは、イメージしなくていいという一点だと思っています。
速さは、その副産物です。1週間でデモを出すのは、速さを売るためではなく、想像しなくて済む状態を早く作るためです。
言葉にできない状態から進める話は「イメージが湧かない」まま、進める方法がありますに書いています。
比べられる土俵が変わりました
もうひとつ、あとから気づいたことがあります。
相見積もりの場面で、他社が提案書と見積もりを出し、私たちがデモを出すと、同じ土俵での比較になりません。
金額の比較は、当然されます。ただ、その手前で「どちらが分かりやすいか」の差がついています。
これは、他社が劣っているという話ではありません。提案書という形式の限界の話です。どれだけ丁寧に書いても、読む側は想像しなければなりません。
私たちは、その工程を飛ばしているだけです。
制作会社によって要件定義書を求めたり求めなかったりする理由は要件定義書を求める制作会社と、求めない制作会社の違いに書きました。
無償でデモを出して、割に合っているのか
正直な話を書きます。
デモを先に作るということは、受注が決まる前に手を動かしているということです。当然、こちらの負担は増えます。決まらなければ、その分は戻ってきません。
それでも続けているのは、決まる確率のほうが上がったからです。10%前後から20%前後へ、という数字は、その差し引きの結果です。
もうひとつ、作ったものが無駄になりません。 受注できた場合、そのデモがそのまま制作の土台になります。ゼロから作り直すわけではないので、全体の期間も短くなります。
「先に作る」と「早く仕上がる」は、同じことの表と裏でした。
真似しやすい方法ではないと思っています
この進め方を、どの制作会社でもできるとは思っていません。必要なものが2つあります。
| 蓄積 | 45分で聞ききれなかった部分を補える経験。これがないと、1週間では形になりません |
| 直せる作り | 早く出したものを、軽く直せる仕組み。これがないと、早く出すこと自体が怖くなります |
どちらか片方では成立しません。蓄積がなければ補えませんし、直しにくい作りなら、早く出したぶんだけ手戻りが重くなります。
私たちは22年、年間40本ほどのペースで作ってきました。固定ページも編集できる仕組みを自社で開発して使っています。この2つが揃ったから、切り替えられたのだと思います。
発注する側から見ると、何が変わるか
ここまで自社の話でしたが、依頼する側から見たときの意味も書いておきます。
デモを先に見られると、判断を先送りしなくて済みます。
「イメージが湧かないので、社内で相談してから」——この一言でプロジェクトが止まることは、よくあります。デモがあると、社内での相談も具体的になります。全ページ分あるので、そのまま社内の説明資料として使えます。
そして、合わなければ断りやすくなります。見てから決められるので。
書類の5つの役割をデモがどこまで引き受けるかは要件定義書を書く代わりに、デモを見る。何が変わるか、45分の中身は要件定義のヒアリングは45分です、全体の日程は要件定義から公開まで、実際のスケジュールを出しますに書いています。
向くケース・向かないケース
デモ先行が合うケース
- – 完成形を想像するのが苦手
- – 社内で共有して、複数人で判断したい
- – 過去に「イメージが湧かない」で止まった経験がある
- – 何社か比べたいが、提案書だけでは差が分からない
合わないケース
- – 着手前に、書面で仕様を確定させる必要がある
- – 稟議で、デザインより先に仕様の承認が要る
- – すでに社内で細かく仕様が固まっている
3つ目は、向いていないというより出番がありません。決まっているなら、そのまま作ります。
書類がなくても進む理由は要件定義書がなくても、Web制作は進みますに書きました。
締め
提案書を厚くしても、受注率は上がりませんでした。説明を足すと、想像していただく量が増えるだけでした。
想像していただくのをやめて、先に作ってお見せするようにしたら、10%前後だった受注率が20%前後になりました。
速いからではありません。イメージしなくていいからだと思っています。
何も決まっていない状態でも、まず見ていただけます。
そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。