AIで浮いた時間を、中身に使う。制作の内側を書きます
要件定義と発注の実務|デモで決めるということ 4本目 全4本
目 次
制作にAIを使っています。ただ、納期を縮めるためには使っていません。
浮いた時間は、文章や構成といった中身のほうに回しています。速いこと自体は、お客さまの利益にならないからです。
どこに使っていて、どこには使っていないか。そして浮いた時間が何に変わっているかを書きます。
制作のどこにAIを使っているか
隠す理由がないので、書きます。
| 工程 | 使い方 |
|---|---|
| 下調べ | 業界の商習慣や用語を、打ち合わせの前に一通り確認する |
| 質問づくり | その業界の方に何を伺うべきか、当日の質問を用意する |
| デモの文章 | 伺った話をもとに、各ページの本文を形にする |
| コーディング周り | 自社のCSSシステムに合わせて組む部分 |
| 社内の整理 | 打ち合わせのメモから、項目を拾い直す |
いちばん効いているのは、デモの文章です。
私たちは1週間後に、全ページ分のデモをお出ししています。文章と写真が入った状態です。空欄やダミーテキストではありません。
正直に書くと、AIがなければ全ページ分は出せませんでした。 以前は主要な数ページで、残りは構成だけ、という形でした。全ページ分を文章入りで出せるようになったのは、ここ数年の変化です。
どこにはAIを使っていないか
こちらのほうが大事だと思うので、はっきり書きます。
お客さまの言葉を、書き直すことには使いません
打ち合わせで伺った言葉は、そのまま残します。
社長が説明に5分かけた部分、現場の方が例え話で語ってくださった部分——ここを整えると、普通の会社の文章になります。 どの会社のサイトにも書いてある文章に近づきます。
読みやすくする調整はします。ただ、言い回しごと差し替えることはしません。
「いかにもな文章」を増やすことには使いません
AIに任せると、文章は自然と長くなります。それらしい言葉で、量が増えます。
これは、私たちがお客さまの持ち込まれる書類で日々見ていることでもあります。
※ AIで作った要件定義書について
最近、AIで作られた要件定義書をお持ちいただくことが増えました。
捨てないでください。そのままお持ちください。
分量が多く、ご本人も読み返していないことが多いのですが、元になった言葉はご本人のものです。 芯は本物で、筋も通っています。AIが肉をつけすぎているだけなので、読み方を変えれば使えます。
自分たちが同じ道具を使っているので、何が起きているかが分かります。
AIで浮いた時間は、どこに行っているか
ひとことで言うと、内容の精査です。中身が合っているかを見る時間に回っています。
具体的には3つあります。
1. 文章
デモに本文が入っているのは、ここに時間を回しているからです。
文章が入っていると、見た瞬間に「合っている・合っていない」が分かります。レイアウトだけを見て判断するのは、実はかなり難しいことです。
2. 写真
どの写真を、どのページの、どの大きさで使うか。撮影が要るのか、既にある写真で足りるのか。
これは要件定義書に書ける項目ではありませんが、見た人の印象はここでかなり決まります。
3. 伺った話を、消化する時間
45分の打ち合わせで伺った話を、そのまま形にするわけではありません。
どれがその会社にとって重い話だったか、何を最初に話されたか、どこで説明が長くなったか——これを整理する時間があります。作業ではないので、短縮のしようがありません。
この3つは、いずれもAIに任せられない部分です。 だから、任せられる部分を任せています。
行き先は、公開までの工程の中にあります。公開後の運用に回しているわけではありません。作っている最中に、中身を確かめる時間が増えた、というのが正確なところです。
短くなった分を、納期に返していない理由
デモをご覧いただいたときに、こう言われることがあります。
「短期間でここまでできるのか?」
ありがたい言葉なのですが、短期間であること自体は、私たちが差にしたい部分ではありません。
デモは1週間でお出ししますが、公開までは1.5〜2か月かかります。ここは短くなっていません。短くしていません。
理由は2つあります。
1つ目。速さは、すぐ横並びになります。 道具は誰でも使えるようになるので、速いことは長く続く差になりません。
2つ目。速く出しても、決めることは減りません。 中身を詰める時間は、詰めるだけかかります。ここを削ると、出てくるものが薄くなります。
浮いた時間を納期に返すと、たしかに見栄えはします。ただ、残るのは早く出来上がったサイトであって、中身のあるサイトではありません。
ですので、時間の行き先を中身のほうに固定しています。
「AIで作ったサイト」と、何が違うのか
ここは聞かれることがあるので、書いておきます。
まず、ご自身でAIを使ってサイトを作られること自体は、いい方法だと思います。小さく始めるなら、そのほうが早い場合もあります。
そのうえで違いを書くと、素材が違います。
AIが書けるのは、世の中に出ている情報の平均です。その会社の中にある話は入っていません。
- – 社長が5分かけて説明した、こだわりの理由
- – 前のサイトで試して、うまくいかなかったこと
- – 現場の方が例え話で語った、仕事の面白さ
- – 「実は、これを言いたかった」という一言
これらは検索しても出てきません。45分の打ち合わせで伺った話が、素材です。 私たちがAIを使っているのは、この素材を形にする部分であって、素材そのものを作らせているわけではありません。
素材が同じなら、出てくるものは近づきます。素材が違うので、違うものになります。
直せる作りと、セットになっています
もうひとつ、内側の話を書いておきます。
私たちは、固定ページも編集できる自社のCSSシステムを使っています。会社案内もサービス紹介も採用ページも、同じ仕組みの上に乗っています。
公開後に自分で直せる範囲は、作り方で決まります。お知らせだけは自分で更新できて、他のページは制作会社に頼む——そういう形になっていることは、よくあります。
これがあるので、早く出したものを、軽く直せます。
速く作れることと、直しやすいことは、片方だけでは意味がありません。速く出しても直しにくければ、早く出すこと自体が怖くなります。両方あるので、デモを先にお出しできます。
45分のヒアリングの中身、作る側が書類のどこを見ているか、実装側の書類が薄い理由、全体のスケジュールは、それぞれ別の記事に書いています。
向くケース・向かないケース
この進め方が合うケース
- – 完成形のイメージが湧かないので、早い段階で見たい
- – 原稿を用意する時間が取れない
- – 社内に、文章を書ける人がいない
- – 前のサイトで、中身が薄いまま公開してしまった経験がある
合わないケース
- – とにかく早く公開したい(1.5〜2か月は変わりません)
- – 原稿がすべて完成していて、それを流し込むだけでいい
- – 制作の進め方に、社内規程で細かい定めがある
2つ目については、正直に書くと、私たちの強みが出にくい案件です。すでに中身がある状態なら、そこに時間を回す必要がないので。
締め
制作にAIを使っています。使っているのは、下調べ・質問づくり・デモの文章・コーディング周りです。使っていないのは、お客さまの言葉を書き直すことです。
浮いた時間は、文章と写真と、伺った話を消化する時間に回しています。納期には返していません。公開までは1.5〜2か月のままです。
AIで作られた要件定義書をお持ちの方は、捨てずにそのままお持ちください。読み方を変えれば使えます。
準備は要りません。そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。