要件定義と発注の実務

「その業界の実績はありますか」と聞かれたときの、正直な答え

目 次

  1. なぜ「その業界の実績はありますか」と聞かれるのか
  2. 実績の有無より、効いているもの
  3. 1. 業界のことは、お客さまのほうが詳しい
  4. 2. 実績より、聞き方のほうが効きます
  5. 3. 外れても、デモで直ります
  6. では、業界の実績が効く場面はないのか
  7. 業界の実績の代わりに、見たほうがいいこと
  8. 結果として、どうなっているか
  9. 向くケース・向かないケース
  10. この考え方が合うケース
  11. 合わないケース

「その業界の実績はありますか」——制作会社を選ぶとき、多くの方が確認される項目だと思います。

私たちの実感を正直に書くと、業界の実績の有無は、仕上がりにあまり関係していません。

ただ、理由は「どんな業界でも作れるから」ではありません。外れても直せるようにしてあるから、前提の精度がそこまで問われない、というのが実際のところです。


なぜ「その業界の実績はありますか」と聞かれるのか

当然の質問だと思います。

同業の事例があれば、その会社は自分たちの商売を分かっているはずだ、と考えるのは自然です。説明の手間も省けそうですし、外れも少なそうに見えます。

実際、制作会社の側も「〇〇業界に強い」という打ち出し方をよくします。私たちも、建設・工務店や福祉・介護の案件を多く手がけてきたので、その話をすることがあります。

ただ、その打ち出し方が選ぶ側の判断を助けているかというと、少し怪しいと思っています。


実績の有無より、効いているもの

正直に書きます。肌感の話です。数字で検証したものではありません。

実績のある業界と、初めての業界とで、デモが外れる度合いはあまり変わりません。

45分のヒアリングをして、聞ききれなかった部分をこれまでの案件から補い、1週間後に全ページ分のデモをお出しする。この進め方をしていますが、初めての業界だからといって、大きく外すことは多くありません。

理由が3つあると思っています。


1. 業界のことは、お客さまのほうが詳しい

当たり前の話ですが、その業界に何十年もいらっしゃる方より、私たちが詳しくなることはありません。

だから、業界知識をこちらが持ち込む必要がないんです。伺えばいいだけです。

私たちが蓄積で補っているのは、業界知識ではありません。サイトとしての型のほうです。

  • どういう順番でページを並べると、読む人が迷わないか
  • 問い合わせの直前で、人がどこを見るか
  • 採用ページで、応募する側が本当に知りたいこと
  • 写真が少ない会社の場合、何で埋めるか

これらは業種が変わっても、あまり変わりません。変わるのは中身で、型のほうは共通している——それが年間40本を作ってきた実感です。


2. 実績より、聞き方のほうが効きます

初めての業界の場合、私たちはその業界向けの質問を用意してから打ち合わせに臨みます。

聞くべき場所は、業界が変わってもだいたい決まっています。

聞く場所何を掘るか
決まらない理由お客さまの顧客が、迷う・比べる・決められないところ
業界特有の制約法規制、商習慣、構造的な縛り
登場人物のズレ決める人と、実際に使う人が違う場合の目線の差
誤解顧客が自分で調べて、間違って覚えていること
同業への違和感業界の常識に対する、その会社なりの異論
語れないものを語る方法数字や効果で表現できない価値を、どう伝えているか

この6つに、その業界の言葉を入れて質問を作ります。

たとえば産業廃棄物処理の会社なら、「マニフェストの管理で、お客さん側がつまずきやすいのはどのあたりですか」といった聞き方になります。業界の実務用語を1つ使うだけで、返ってくる説明の深さが変わります。

実績があるかどうかより、この準備をしているかどうかのほうが、結果に効いていると思います。

そして正直に言うと、この準備は初めての業界のほうが丁寧になります。分かっているつもりがない分、ちゃんと聞くからです。


3. 外れても、デモで直ります

これが、いちばん大きい理由です。

私たちの進め方は、こうなっています。

45分で聞く
  ↓
足りない分を、これまでの案件から補う
  ↓
1週間後、全ページ分のデモを出す
  ↓
外れていたら、その場で直す

答え合わせの場が先に組み込まれています。

だから、前提の精度がそこまで問われません。初めての業界で、補った部分が少し外れていたとしても、1週間後に分かって、その場で直るだけです。

逆に言うと、答え合わせの場がない進め方だと、業界実績は重要になります。 3か月作り続けて最後に見せる進め方なら、最初の理解がずれていた場合の損失が大きいからです。

「業界実績はどのくらい重要か」の答えは、その会社の進め方によって変わる、というのが正確なところだと思います。


公開後に直せる作りについてはコーディング仕様書に、書くことがほとんどない理由に書いています。


では、業界の実績が効く場面はないのか

あります。正直に書いておきます。

打ち合わせの速さは、実績があるほうが有利です。

説明していただく手間が減りますし、こちらの理解も速くなります。初めての業界だと、同じ45分でも密度が違います。

ただ、それが仕上がりの差になっているかというと、そこまでではない、というのが実感です。時間の差であって、質の差ではない。

もうひとつ、表示のルールが決まっている業種があります。化粧品や健康食品のように、広告表現に制限のある分野です。

こちらは、LPを中心に手がけてきました。ですので、何に気をつけるかは分かっています。

ただ、この分野では実績があっても、伺うことは減りません。 表現の線引きは、法令だけで決まらないためです。どこまでを許容するかは会社ごとに違いますし、業界団体の自主基準や、過去に指摘を受けた経緯も関わります。御社が普段守っていらっしゃるルールは、教えていただきます。

実績があると何が変わるかというと、何を確認すべきかが分かっている、という点です。確認そのものは省けません。


業界の実績の代わりに、見たほうがいいこと

同業の事例が見つからなかった場合、何を見ればいいか。私たちなら、こう見ます。

見るところなぜ
公開後の更新のしやすさ事例が同業でも、公開後に触れないサイトは同じ状態になります
公開してから何が変わったか「作りました」ではなく「その後どうなったか」が書いてあるか
直近の案件があるか数年前の事例だけ並んでいる場合、今の体制と違う可能性があります
最初の打ち合わせで何を聞かれたか一般論の質問しか出てこないなら、準備をしていないかもしれません

4つ目は、実際に会ってみないと分かりません。ただ、いちばん確実です。

実績のページから会社の力量そのものを読み取るのが難しい理由は、ホームページ制作会社のレベルに書きました。

初回の打ち合わせで、御社の業界に踏み込んだ質問が出てくるかどうか。実績の有無より、そちらのほうが判断材料になると思います。


結果として、どうなっているか

業界実績のあるなしにかかわらず、公開後にこういう連絡をいただくことがあります。

「問い合わせが増えました。顧客からも好評です」

初めての業界だったから成果が出なかった、という覚えはありません。


工務店・建設業の具体例は工務店・建設業のサイト要件定義で、よく抜ける項目、書類がなくても進む理由は要件定義書がなくても、Web制作は進みますに書きました。


向くケース・向かないケース

この考え方が合うケース

  • 同業の事例が見つからず、判断に迷っている
  • 業界特有の事情が多く、伝わるか不安がある
  • 過去に「業界を分かっていない」と感じた経験がある

3つ目の方に補足すると、それは業界知識の問題ではなく、聞かれなかったという問題かもしれません。分かっていないこと自体は、悪いことではないと思っています。

合わないケース

  • 打ち合わせの回数を最小限にしたい。説明する時間を取りたくない
  • 業界の商習慣を、こちらから説明せずに汲み取ってほしい

この2つは、正直に申し上げると、同業の実績が豊富な会社のほうが合います。私たちの進め方は、伺うことを前提にしているので。


「その業界の実績はありますか」という質問に、私たちは正直にお答えしています。ある業界もあれば、初めての業界もあります。

そして、それが仕上がりを左右した覚えは、あまりありません。業界のことは伺えばいいですし、聞ききれなかった部分は、1週間後のデモで答え合わせをするからです。

先に完璧に理解してから作るのではなく、あとで直せる状態を先に作っています。

御社の業界が初めてでも、そのままの状態でご相談ください。

要件定義書は、書かなくて大丈夫です。

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