要件定義書を書く代わりに、デモを見る。何が変わるか
要件定義と発注の実務|デモで決めるということ 1本目 全4本
目 次
要件定義書が担っていた5つの役割のうち、4つはデモが引き受けられます。1つは引き受けられません。
引き受けられないものも含めて書きます。
そのうえで、変わらないことも先に書いておきます。公開までの期間は短くなりません。
Web制作の要件定義書は、5つの役割を兼ねています
「要件定義書が要るか要らないか」という聞き方だと、答えが出ません。1枚の書類が、別々の役割を同時に背負っているからです。
分けると、こうなります。
| 役割 | |
|---|---|
| 1 | 発注側と制作側の認識を合わせる |
| 2 | 見積の根拠にする |
| 3 | 社内を通すための資料にする |
| 4 | 決め忘れを防ぐ(抜け漏れの確認) |
| 5 | あとで食い違ったときの拠り所にする |
デモは、このうち1〜4を引き受けられます。5は引き受けられません。なお、1週間で全ページ分のデモが出せる理由は別の記事に書いています。
以下、ひとつずつ書きます。
1. 認識を合わせる ← デモのほうが正確です
書類で認識を合わせるとき、両者は文字を読んで、それぞれ頭の中で絵にしています。同じ文を読んでも、浮かぶ絵は違います。
「シンプルで見やすいデザイン」——この6文字に、何種類の絵があるかを考えると分かりやすいと思います。
デモの場合、同じ画面を一緒に見ています。 ずれていれば、その場で「ここは違う」と言っていただけます。
私たちがお出しするのは、全ページ分です。文章と写真が入った状態でお出しします。空欄や「ダミーテキスト」の状態ではありません。想像していただく余地を、なるべく残さないようにしています。
認識合わせについては、書類がデモに勝てる場面がほとんどありません。 言葉にできない状態から始める方法は「イメージが湧かない」まま、進める方法がありますに書きました。
2. 見積の根拠にする ← これもデモのほうが正確です
見積は、作るものの量で決まります。ページが何枚あって、どんな機能が要るか。
書類から量を読み取る場合、書かれていない部分は制作側が推測します。推測した分は、たいてい多めに見積もられます。 外れたときに困るのは制作側なので、当然そうなります。
デモがあると、推測する部分がありません。見えているものが、そのまま量です。
「この2ページは要らない」「ここに1ページ足したい」という話も、見ながらであれば数分で済みます。書類の上で同じ議論をすると、それぞれのページに何が載るのかを説明するところから始まります。
3. 社内を通す ← デモのほうが通ります
社内の稟議や、上長への説明のために書類が必要、というご相談はよくあります。
このとき、デモはそのまま説明資料になります。 全ページ分あるので、「こういうサイトにします」を見せるだけで済みます。
書類で説明すると、聞いた側は結局イメージが湧かないので、「で、どんな見た目になるの?」と聞かれます。そこで止まります。
ただし、書式が必要な場合はあります。 稟議の形式が決まっていて、項目を埋めた書類でないと上げられない、というケースです。その場合も、お客さまだけで書いていただく必要はありません。45分のヒアリングのあと、こちらで下書きをお作りします。 それを見ながら整えていただくほうが早く終わります。
書類が要る場合も、宿題としてはお渡ししません。
4. 抜け漏れを防ぐ ← デモのほうが見つかります
書類のチェックリストで抜け漏れを防ぐ方法は、思いつかなかったことには効きません。 リストにない項目は、リストでは見つかりません。
34項目の仕分けで抜けを潰す方法もありますが、デモを見ていただくと、抜けが違う形で出てきます。
「あ、採用のページがない」
「問い合わせ先が本社だけになっている」
無いものは、あるはずの場所を見たときに気づきます。 リストを読んで気づくのとは、経路が違います。
そしてこれは、45分で聞ききれなかった部分を回収する仕組みでもあります。私たちは足りない部分をこれまでの案件から補って作っているので、補った部分が外れていれば、デモの場で必ず分かります。
5. あとの拠り所にする ← これは引き受けられません
正直に書きます。デモは、契約上の拠り所にはなりません。
「言った・言わない」になったときに開いて確認する書類としては、要件定義書のほうが機能します。書式が必要な場合は記入例つきのテンプレートを配布しています。デモは合意の記録ではなく、その時点の案です。
ですので、次のような場合は書類を作ったほうがいいと考えています。
- – 公共の入札や、それに準じた手続きで進める
- – 社内規程で、成果物の範囲を書面で定める必要がある
- – 発注元と実際の利用部門が別で、あとから第三者が経緯を確認する可能性がある
この場合も、書き上げていただく必要はありません。 ヒアリングのあとにこちらで下書きを作り、確認していただく形にできます。書類とデモは、どちらか一方ではありません。
デモは無償です
ご相談の段階でお出しするデモに、費用はいただいていません。受注が決まる前に作っています。
これは「無料で作ります」というサービスの話ではありません。見てから断っていただくために、先にお見せしています。
見ないまま決めていただくと、進めてから「思っていたのと違う」が出ます。そのときにはもう、お互いに引き返しにくくなっています。先に見ていただければ、合わないときに合わないと言っていただけます。
決まらなければ、その分は戻ってきません。それでも、この順番のほうがいいと考えています。
変わらないこと
置き換えても変わらない部分を、先に書いておきます。
| 聞く項目 | 変わりません。 ざっくばらんに、一通り伺います |
| ヒアリングの時間 | 45分(デモはこのあと1週間で出します) |
| 公開までの期間 | 1.5〜2か月。短くなりません |
| 決めることの総量 | 変わりません。決める順番と場所が変わるだけです |
最後の行が、この記事でいちばん大事なところだと思っています。
デモ先行は、決めることを減らす方法ではありません。書く前に決めるのをやめて、見ながら決める方法です。決める量は同じで、決めやすさが違います。
そして、公開は1.5〜2か月先です。デモが1週間で出るので早いと思われることがあるのですが、そこから先は普通に時間がかかります。
なぜ、要件定義書ではなくデモを先にするのか
理由は、待たないためです。
書類を先にお願いすると、そこで止まります。責める話ではなく、通常業務があるので当然です。特に、窓口の方がご自身の現場を持っている場合、確認は本業のあとに回ります。
私たちは、確認を待つ前提の進め方をしていません。 デモがスタートなので、こちらが先に手を動かします。
お客さまに宿題を出さないのは、優しさというより、出すと止まるからです。
この置き換えを実際にやった結果はデモ先行に切り替えて、受注率が10%前後から20%前後になりましたに書いています。
向くケース・向かないケース
デモ先行が合うケース
- – 書類を書く時間が取れない
- – 完成形のイメージが湧かない
- – 社内に見せて相談したいが、見せるものがない
- – 何度か書類でやり取りして、話が進まなくなっている
書類も作ったほうがいいケース
- – 入札や、書面での取り決めが必要な手続きがある
- – 複数社に同一条件で配って比較したい
- – 発注元と利用部門が分かれていて、経緯を残す必要がある
この場合も、下書きはこちらで作れます。書類とデモの両方という進め方が、いちばん抜けが少ないとも思っています。
合わないケース
- – 私たちと直接やり取りができない体制になっている
デモ先行は、出したものに反応が返ってくることに全面的に依存しています。反応がないと、答え合わせが成立しません。ここだけは、こちらでは埋められません。
締め
要件定義書を書く代わりにデモを見ると、認識合わせ・見積・社内説明・抜け漏れの4つは、デモのほうが正確になります。あとの拠り所としては、書類のほうが機能します。必要な場合は、下書きからこちらでお作りします。
公開までの期間は短くなりません。変わるのは、決める順番と場所です。
書類の準備は要りません。そのままの状態でご相談ください。
要件定義書は、書かなくて大丈夫です。